ヨコジュン先生の思い出

SF作家で明治文化史研究の第一人者、横田順彌氏の訃報が去る16日報じられた。

Twitterで第一報が出たのは15日で、亡くなられたのは1月4日とのこと。

死因は心不全。享年73。以下、「ヨコジュン先生」と表記する。

 

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ヨコジュン先生は、私の人生の分岐点にたびたび登場する作家さんだった。

 

最初に触れたヨコジュン先生の作品は、集英社文庫『ユーモアSF傑作選』(豊田有恒氏編、1977年刊)に収録された『脱線〈たいむ・ましん〉奇譚』だった。
高校に進学した当時の私は、マンガは読んでいたものの活字がまったく受け付けず、自己革新しようと手を出したのが、当時ブームだったSFショートショート。短いのから少しずつ慣れていこうと考えた。

最初に手を出したのは忘れもしない筒井康隆氏の『あるいは酒でいっぱいの海』(集英社文庫)。理由はとにかく薄かったから。次がご多聞に漏れず星新一氏の『ボッコちゃん』を始めとする新潮文庫シリーズで、これは読み漁った。そしてその次が『ユーモア~』だったと思う。今も手元にあるが、文末の解説が落丁でブッツリ途中で切れている。

 

それはさておき、この『脱線〈たいむ・ましん〉奇譚』を読んで、小説で初めて爆笑を体験したのは大きかった。読書歴の浅い私には、かなり刺激が強かった。落研OB(法大)ならではのテンポとリズム、速射砲のようなギャグの情報量。そして何より、理に落ちないバカバカしさ。ギャグ好きの私にはこりゃたまらん。

その感動が消えない数週間後に、書店で見つけたのが『ヨコジュンの宇宙寄席』(双葉社、1980年刊)。副題が「ハチャハチャSFあんそろじい」とあり、こちらはSFマンガも収録されていた。当時から大好きだったいしいひさいち先生や吾妻ひでお先生も掲載されていたので、こちらはさらにバカはまり。私のアンソロジー好きはこの本がキッカケかもしれん。

さらにさらに、翌月、同じ双葉社から『ヨコジュンのびっくりハウス』という本も出た。こちらはSF作家としての諸々書き物を集めたコラム集だったけど、作者名とタイトルだけで即買い。ちなみに当時の雑誌「ビックリハウス」とは無関係。

その後も短編・中編小説集を見つけるたびに購入する日々が20歳頃まで続く。大学の先輩に紹介されて、名古屋のヨコジュン先生のファンクラブにも一時期在籍したりした。

 

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上京して漫画の道に進み、しばらく疎遠になったあと、次に書店でヨコジュン先生の本を手にしたのが1995年(本の奥付参照)。神保町の書泉グランデで『明治不可思議堂』(筑摩書房)を見つけた時だった。
この当時はちょうど、仕事していた雑誌が立て続けに休刊して、何か違うジャンルの勉強をしなきゃ…と思っていた頃。当時から落語は好きだったし、相撲の歴史も基礎知識ぐらいはあったので、数々の明治文化のエピソードが抵抗なく吸収できて、この本一冊で明治の文化風俗の虜になった。この本をキッカケに、あらゆる明治文化史本を片っ端から読んだ。

この時期はヨコジュン先生の明治文化史本も立て続けに刊行されていて、一時は10冊以上の明治関連の著書がウチの書棚に並んでいたはず。

 

また同じ頃、プロ野球関係の資料や古雑誌収集もしていた。これはヨコジュン先生の著書『探書記』(本の雑誌社、1992年刊)による影響が大きい。古書収集の心得的な項目があったのだ。この頃はマスコミにも「古書ブーム」の流れがあった覚えがある。

ただ一方で、古書集めほどお金のかかる道楽は無い。結局、私のようなニワカ古書マニアが長く続くはずもなく、大半の本はその後手放してしまった。それでも残った一部の明治文化史資料は、現在でも落語漫画を描く際に開いている。

 

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かように一方的憧れを感じつつ過ごした読者としての数十年だったが、ほんの一時期、同じ雑誌で連載させて頂いたこともあった。

1997年頃だったかな、桃園書房の「小説CLUB」という月刊誌で野球コラムを担当していた頃に、ヨコジュン先生の明治文献検証のコラムが始まったことがあったのだ。あまりの嬉しさに思わずイラストスペース使って「ヨコジュン先生~!」ってラブコールしちゃった。その後、雑誌の休刊と共にこちらも終焉することになる。

そういえば先生も中日ドラゴンズファンだったんだよねぇ。そちらの接点は残念ながら無いままであった。

 

 

2001年に書き下ろされた『ヨコジュンのハチャハチャ青春記』(東京書籍)の購入をラストに、その後は度重なる引っ越しもあって、タケノコの皮を剥くかのように少しずつ先生の著書を減らさざるを得なかったのだけど、それでもまだ現在これだけの本は残してある。

1月6日スタートしたNHK大河ドラマ『いだてん』に押川春浪が登場した時は「しまった!」と思った。2冊出ている先生の押川本と、天狗倶楽部が活躍するであろう明治野球本は、いずれも手放してしまったからだ。

『いだてん』の第1話、先生はご覧になれなかったんだなぁ…。

 

ヨコジュン先生、若い頃大いに笑わせて頂き、また長きに渡って勉強させて頂き、本当にありがとうございました。(合掌)