3年半ぶりの映画メモ(記憶があるうちに)

当ブログで映画の感想を最後に書き残したのは、2016年5月24日の『家族はつらいよ』。翌2017年6月5日にも続編『家族はつらいよ2』を同じユナイテッド・シネマ稲沢で観ていたのだけど、感想は残さなかった。「高齢者の免許自主返納」がテーマと聞いていたので興味があったものの、本編にはほとんど出てこず肩すかしを食らったため。翌2018年5月公開の続々編は観ていない。

 

で、それ以来の映画館来訪となった今月8日、三谷幸喜監督の新作『記憶にございません!』をこれまたユナイテッド・シネマ稲沢で観た。まもなく上映終了のようなので、ネタバレを盛り込みつつ感想を書く。半月近く経っちゃったので忘れないうちに。

 

ロッキード事件の証人喚問で有名になり、現在も国会の常套句として頻繁に聞くフレーズがタイトルになっているのを見て、「おっ、今回は政界パロディかな?」と思ったら、そっち方面の辛味や毒味はほぼ無し。日米の貿易摩擦の話題が後半少しだけ盛り込まれたけど、それも揶揄を含むようなものではない。三谷監督もパンフレットのインタビューで「風刺は苦手」と語っていて、むしろ政界が舞台のキャラクタードラマの様相。

主人公の「史上最低の総理大臣」黒田啓介(中井貴一)は、映画冒頭から既に記憶が無い。いかに最低だったかは、わずかな回想シーンや秘書たちの証言からしか見取れない。そして黒田は記憶を取り戻そうと、総理の職を辞さないまま奔走。小学校時代の恩師・柳先生(山口崇)から三権分立など政治の基本を教わり、「国民から愛される総理」を目指そうと決心した矢先、ナリカワ米大統領(木村佳乃)との会談という大舞台が……というあらすじ。

 

観ていて感じたのは、前作『ギャラクシー街道』同様、今作も舞台色が強いなーという点。

ストーリー展開の非現実さやヤマのかけ方、さらに登場人物同士の劇場型ともいえる「情」中心の応酬など、とてもお芝居脚本チックだった。ただ、なんだろう、私には意外とこれらがグッと来なかった。お芝居は嫌いじゃないんだけどね。

なんでか考えたら、本来ならば本編中最も心揺さぶられるであろう「最低な総理→好かれる総理に変貌してゆく心理行程」があんまり描写されてないのね。それは、あらすじにも書いた通り、最低総理時代を中井自身が映画の中でほとんど見せていないから。ダメでガサツでエロオヤジな部分の断片は本編進行の過程で周囲の人物たちの言動によってちょっとずつ垣間見えるのだけど、映画の冒頭から中井はほぼ全編「いい人(別作品で中井が演じるような)」だったので、その変身ぶりは感じられず、見所にならなかったわけ。

むしろ「政治を何も知らない素人→総理」というシチュエーションだったのならすべてに納得もできたし、自然だったと思う。ただそれは現行の日本の法律と行政の現状ではありえないから、最終的に「最低総理の記憶喪失」という設定になったのだろう。

どうせ舞台色が強いなら、いっそパラレルワールドにしちゃって「日本に闇の大王制度が突然成立して、一介の会社員が総理指名された」なんてメチャクチャなストーリーでもよかった気がする。なんかSETっぽいですが。

中井のスマートな演技はそれはそれで見応えは感じたとはいえ、ガラリと変身してみせる中井の「幅」も、私は見てみたかった。

 

それもあって、今回本作の中でストーリーや演出以上に印象が強かったのは、キャスティングだった。三谷映画の常連組をはじめ、山口崇(誰か判らずエンディングで知って驚いた)や宮澤エマ、ROLLY、ずん飯尾、ジャルジャル後藤、みんないい役だった。一番驚いたのは色っぽいニュースキャスターが有働アナだったこと。特殊メイク級の変身ぶり。

ただまぁ言ってしまえば、テーマがテーマだけに期待値を高くしすぎたかもしんない。入場料と同等の満足感は得たが、キャスティングが最も印象に残ったなどと言われるのは制作サイド的には不本意でしょーね。自分で書いといてナンですが。