「いだてん」の一年

2019年はNHK大河ドラマ「いだてん」に明け暮れた一年だった。

 

古今亭志ん生がドラマのキーパーソンになると聞き、「落語別館」のトップページを昨年暮れから志ん生の似顔絵に替えてドラマの始まりに備えた。

明治末期と昭和30年代、さらにスポーツ界と落語界を行ったり来たりする、重層的でトリッキーな脚本の構成。第1話を見て、クドカンの本気を感じつつ「ちょっと従来の大河ファンには難しいんじゃないかな…」と正直感じていたら、徐々にストーリーの比重が本来メインである金栗四三と田畑政治の世界に寄りだした。加えて、戦争が本格化する第3部前半にはそうした陰鬱な時代背景も追っかけだしたため、いよいよ落語界の出シロが減ってしまって、開始初期のトリッキーさをワクワクする感覚は消えた。

もっともそのおかげで、トータルテーマの「スポーツは楽しむもの」という部分は、金栗・田畑・嘉納治五郎らを通じて分かりやすくダイレクトに視聴者に伝わり、視聴率とは裏腹にドラマ自体の評判はうなぎのぼり。NHKとしては異例なほど、結構な量のアイロニーも含み、一年を通じてとても見応えがあった。

 

大河を第1話から最終話まで全話見たのは1988年の「武田信玄」以来31年ぶりで、前回を見終えて「もう二度と大河を見ることはないだろうなぁ…」と思っていたけど、「落語だから」「クドカンだから」で見だした2作目の大河ドラマは、期せずして大当たりの傑作であった。

 

 毎回のように入れ替わるキャラクターと、かつて横田順彌氏の本やスポーツ史の本で読んだ明治末期~昭和前期の興味深い史実が、ドラマを盛り上げたのは言うまでもない。ただ、やっぱり私が「いだてん」で最も注目をしていたのは、ビートたけしと森山未來が演じ続けた古今亭志ん生の描かれ方だった。

しかし残念なことに、田畑編に突入後はかなり薄味になってしまった。夏帆演ずるおりんさんや、柄本時生演ずる万朝なんてあたりは、当初の予定ではもっと活躍したのではなかったかと思う。落語を悪者にしたくないのでここではあくまで推測として書くが、もし視聴率が安定していたら、初期の重層的でトリッキーな脚本の構成はずっと続いたのだろう。さすればりんさんも、万朝も、清の馬生も、次女の喜美子も、なめくじ長屋も、円喬以外の各師匠たちも、もっとがっつり取り上げられたのではなかろうか。それだけが心残りだった。

 

だって、森山さん、あんなに好演だったじゃんねー。

まあ、第3部ラストの「懐かしの満州」の回で最高のシメをしてくださったので、それで気持ちの踏ん切りはつけられたのだけどね。

ドラマ自体も、キャストの不祥事によって二度も再編集をする事態(1人は途中交代)があったり、キャストが妊娠して回を追うごとにお腹が大きくなっちゃったり(最終的には脚本に効果的に活かしたけど)、内側もかなり波乱万丈だったけど、肝心のストーリーは内容を見る限り初志貫徹だったはず。ならば無問題。昭和の頃なら間違ってもNHKで(いや、民放でも)聞けなかった単語もいっぱい聞けたのはその表れのはず。

金栗編の最終回「種まく人」と田畑編の最終回「時間よ止まれ」は、それぞれ判っていてもボロ泣きしてしまったもんなぁ。あと再編集で放送された12月30日の総集編も、焦点が一層明確になって理解しやすく、これはこれでよかった。

いずれディレクターズカットならぬ「もし視聴率が20%キープしてたら本当はこんなかんじにするつもりでしたカット」版も、何年後かに見てみたいな。

 

一生記憶の中で反芻できる、つくづく思い出深い、いろいろ深いドラマであった。

キャストの皆さん、スタッフの皆さん、お疲れさまでした。