62年ぶりvs5年ぶり

大須演芸場では今月1日から、落語協会の今春の真打昇進襲名披露興行が始まっている。

注目度の高い5人の新真打で、特に落語ファンを喜ばせているのが、62年ぶりに誕生した「春風亭柳枝」の大名跡。二ツ目時代からの期待株であった春風亭正太郎さんが、このたびめでたく九代目を襲名された。

 

実は新・柳枝師は二ツ目時代、「寄席描き展」に毎回通ってくださっていて、「落語別館」には第1回(2012年)来場時の写真が今も残っている。

ことほど左様に長らくご贔屓になっている恩人がご来名とあって、お花のひとつも贈りたいところであったけど、残念ながら諸々の事情で叶わず。せめて披露口上は拝見せねばと前売りを買って、この日の第一部に駆けつけたのでした。

で、後で調べて驚いた。大須演芸場の定席興行に、正規の木戸銭で入場するのが、なんと5年前の新装開業1周年記念興行以来。その間に観覧してたのは、定席ではない寄席興行だったり、大須友の会のタダ券入場だったりで、こりゃ自分でもあんまりだと思った(汗)。

 

(開口一番)登龍亭篭二 『道灌』

 春風亭朝之助 『猫と金魚』

 五明楼玉の輔 『つる』

 アンダーポイント 漫才

 春風亭正朝 『目黒のさんま』

  ~仲入り~

 披露口上(正朝・柳枝・司会玉の輔)

 立花家橘之助 浮世節

 春風亭柳枝 『明烏』

 

柳枝師の高座は、私が東京に住んでた2012年、二ツ目時代の正太郎さんと天どんさんの二人会を合羽橋のスタジオで聴いて以来9年ぶり。あの時は『権兵衛狸』と『化物使い』だった。

披露口上で師匠・正朝師から「柳枝は目黒のお坊ちゃん育ち」という話が出たのを受けて、この日の高座は若旦那ネタの『明烏』。古典落語の土台やセリフはほとんど崩さず、それでいて緩急を使った現代的な演出で、年配客から若い客まで万遍なく笑わせていたのはすごい。すっかり自分のネタにしていたと思う。こりゃ他の噺もぜひ聴いてみなきゃ。

 

この日の高座はトリ以外もどれも印象深かった。

・正朝師はホントに久しぶりだったけど、高座は昔のまま。唯一違ったのは、名古屋の寄席で「目黒」の位置関係を客に伝えるため、何度も説明を繰り返した箇所ぐらい。

・玉の輔師の『つる』はほぼ換骨奪胎の新作。初めて聴く人にも通じやすい『つる』。

・朝之助さんはお初。『猫と金魚』の新解釈的演出、興味深く聴けた。

・橘之助さんが途中で名人の出囃子をちょっとだけ弾いたのだけど、大須演芸場にちなんで古今亭志ん朝師の「老松」を弾いた時は、ちょっとジンときた。

・特にインパクトが強かったのは、仲入り明けの披露口上。あの軽さが売りの玉の輔師が、冒頭一言一句揺るがせにしない格式ある口調で口火を切った時は、内心めちゃめちゃビックリした。その直後、「あっ、この口調、林家彦六師の司会だ」と気がついた。こういう部分にも、一門の系統というか伝統って受け継がれるんですねぇ。まあその後はグッと砕けて客席を和ませていたんですけど。

 

ラストの三本締めも綺麗に決まり、私も無事お祝いできて、よかったよかった。

ぜひまた名古屋にいらしてくださいまし。