「あまちゃん」の中の笑いメモ(後編~総括)

NHK-BSプレミアムの「あまちゃん」再放送全156話が、9月30日に完結した。

待ちかねた再放送だっただけに、開始前一番恐れていたのが「大地震発生による放送自粛、休止」。9月27日の第153話で途中に地震速報のテロップ(しかも東北で)が入って正直ドキッとしたが(大事にならなかったようなので書いてます)、ともあれ……半年間のチェックは長かったー。ぐったり。

好きなモンでも半年継続はホント大変。その分やりがいはあったが。

 

さて、後編は第18週「おら、地元に帰ろう!?」からラスト第26週「おらたち、熱いよね!」までの9週(第103話~156話)。前編(こちら)中編(こちら)をひっくるめてなお余りあるほど、ストーリーが激動した9週であった。

ドラマの大筋に関わる展開だけでも「春子の新事務所~アキのブレイク」「夏ばっぱの入院手術」「映画『潮騒のメモリー』オーディション~撮影」「太巻の鈴鹿への告白」「鈴鹿が春子の事務所入り」「東日本大震災~アキ北三陸へ帰る」「流された海女カフェの再建」「北鉄の一部再開通」「潮騒のメモリーズ復活」「鈴鹿のリサイタルツアー」と、こんなにあった。

これに主要登場人物らのエピソードまで加えたら、ただでさえ重層的なドラマなのに、とてもじゃないが追いきれない。

 

なので、笑いに特化して検証するという本稿のテーマは、我ながら実に小ざかし…いや、効率的だなーとニンマリしてたら、実はこちらにも、重層地獄が待ち構えておった。

前回の中編の記事中「2度目シリーズ」と称していたアレだ。

 

後編へ入ってから、「2度目シリーズ」つまり「過去回の名シーンや名ゼリフを別場面でリフレインする」式ギャグが顕著に増えた。1話に数ヵ所出る日もあるほど。

前回書いた、長丁場の中で生まれた新たなクドカンのギャグパターンかもしれないし、あえて意図的に計算したシナリオなのかもしれない。

巷間の「伏線回収!」って常套句が好き人は、途中で言い飽きたと思う。それほどあった。

ホントならここで後編の「2度目シリーズ」を列挙したい所だけど、これまたとてもじゃないが追いきれないので、今回泣く泣く割愛した。

本放送から10年経ってイマサラ無いだろうけど、「お仕事」として依頼が来た時用に取っとこう。

 

もっとも考えたら、そもそも最終話のセレモニーのシーンからして第1話のリフレインだし、

アキとユイのお座敷列車も第53話のリフレイン。『潮騒のメモリー』は映画も歌もリバイバル。

言うなれば「あまちゃん」というドラマ自体が、「2度目(≒元に還ること)」をベースに描かれ続けた。そこにはもちろん、東北の「被災からの復興」という願いも込められている……ような気がしないでもない。なのではないか、やぶさかではない。そんな夢を見た。

 

たまたま「見つけてこわそう!」の「逆回転」というワードがキャッチーで、ドラマ内でもよく使われたものの、それを引き合いに出すまでもなく、最初からそのセンを狙った上での重層ギャグ連射だったのか…?などと、全話見終えて思ったのだけど。こりゃ穿ち過ぎかな。

 

 

 

いかん、笑いに触れる前に、つい総括っぽいことを始めてしまった。

総括はこのあと改めてするとして、ここからはいつものペース。

私が「あまちゃん」第103話~156話で大いに笑ったシーン10選(順不同)。

 

★あれが?幸橋夫?(116話)

第20週「おらのばっぱ、恋の珍道中」のエピソードが個人的にとても好きで、中でも夏ばっぱ一行が橋幸夫に逢う場面の、表題セリフの「間」の良さ。きっと何度見ても笑えると思う。

ちなみに、鈴鹿ひろ美が「幸橋夫」と前後を間違えるギャグは、154話に「北鉄のミスユイちゃん」という形で再登場します(2度目シリーズチラ見せ)。

 

★圧倒的な前髪クネ男(128話)

放送当日はSNSのトレンドワードにほぼ終日名前が載っていたほど、再放送なのに超人気。

久々に見たけど、ここまで動きも口調もコントチックだったのは覚えてなかった。たった1回の出演でここまで爪痕を残せる勝地涼さんすごい。

ということで、その前髪クネ男もいる、10年前に描いた絵(チョイ役大集合)を本稿ラストに載っけます。

 

★甲斐さん熱いよね(一連)

純喫茶「アイドル」の甲斐さんは好きなキャラクターだった。出シロとしてはチョイ役なのに、後編の行動はどれも記憶に残った。

「見つけてこわそう」の逆回転に「えぇぇー!」と真顔で驚いたり(112話)、鈴鹿ひろ美の結婚にショックで寝込んじゃったり(141話)。とりわけ、正宗の婚姻届の配偶者欄に自分の名前を書きかけた場面(144話)は爆笑した。

 

★アキの一人芝居(123・124話)

オーディション後、種市先輩を家に誘う「さかりのついた猫背のメスの猿」アキ。

「ママもパパも、家さいねぇの」と自分の言葉を繰り返し、続けて「5分待でるか?」と先輩の言葉も復唱し、さらに「ママもパパも、家さいねぇの」を繰り返したあと、アキのナレーションで「というわけで、『あまちゃん』スタート!」。

ちなみに、「さかりのついた~」のフレーズは、66話でアキをなじる春子のセリフ「あんたみたいな、猫背の貧弱なメスの猿」が元ネタ(チラ見せ)。

 

★違法動画(119話)

「今は恋人がお仕事です」と言い間違えたアキの声を、相撲中継の高見盛のインタビューにかぶせた動画。クドカン得意のキワキワ狙いの笑い。

 

★「踊りだしましたね」「バカなのか?」(151話)

この時の太巻の踊りが実にバカっぽかった。

 

★泣く子供たち(146・152話)

GМTに対して、眼鏡会計ババアに無理やり頭を押さえつけられて泣きそうな琴ちゃんの顔に、つい笑ってしもた。ギャグはひでーけど、あくまで「あるあるの笑い」です。

もひとつ、栗原さんの愛児に「死霊の『だんご3兄弟』」を聞かせる鈴鹿ひろ美。この時の赤ちゃんの泣き顔(別撮りインサート)にも笑ってしもた。

『だんご3兄弟』って音階がずっとマイナー音で続くので、アカペラだと普通でも怖いんです。余談。

 

★「やれよ!」「やるよ!」「やった!」(146話)

前編の時に書いた「シチュエーションに則ったセリフの笑い」の一例。

潮騒のメモリーズ活動の再開を「やりたいよ、でもやれないよ…」と迷うユイに、その場の全員で「やればいいのに」などとけしかけ、最後に兄のヒロシが強く促すと、ユイもはずみで「やるよ!」。間髪入れずに勉さんが「やった!」と韻を踏んだ歓声。

この一連、ユイの心の逡巡を見事に描写した名シーンだった。

 

★いっそんのインパクト(134話)

前日(133話)が震災の回。ドラマ全体に重い緊張が続く中、アキが北三陸の人たちの笑顔を順番に思い出す場面は、ホッとした。

いっそんのキャラクターの濃さが全編を通じて最も役に立った名シーン。

 

★6人の中年による合同結婚披露宴(154話)

「バージンロードを歩く6人の中年。みんな何となく半笑いでした」

というアキのナレーションが、笑えた中にも不思議と沁みた。

 

後編は、笑えるシーンと連動した名場面も多かった。

・メールの変顔画像→「アキちゃん逆回転してよ」(117・118話)

・鈴鹿ひろ美の宇宙ドラマ、光に消える鈴鹿さん(136話)

・北鉄の車体にあるプロポーズの言葉に大吉「だぁ!じぇじぇじぇー!」(152話)

・若春子の持つマイクの電池が抜けて、太巻の額に命中(153話)

それと並行して、

・「何この空気?最終回?」(136話)

・春子のスケバンエピソードに、ナレーションの春子がツッコむ(151話)

などの「降りたギャグ」(コント番組の楽屋オチっぽい笑い)も目立った。

ドラマが終盤に来れば来るほど、ギャグが全方向から容赦なく攻めてきた感。

 

 

 

あとそうですね、前・中編のアンサーを落穂拾い的にいくつか…

 

・149話で北三陸にさかなクンが来た際、ユイが「どこ?人面魚どこ?」と飛び出して来たのは、44話にあった未確認生物論争シーンのアンサー。みんながサンタだ河童だ言ってる最中、ユイだけは「私何にも見たことない…」と落ち込んでたのを覚えている視聴者へのサービスゼリフ(チラ見せ)。

 

・63話であらすじが紹介された映画『潮騒のメモリー』は、太巻が脚本を手掛けた『潮騒のメモリー ~母娘の島』で内容一新。

127話で紹介されたストーリーによれば、二人に襲いかかる不幸として

「夫の残した借金、村人の噂話、執拗な嫌がらせ、60年に一度の巨大台風、120年に一度の大飢饉、4年に一度の盆踊り、鈴鹿山の大噴火、突然現れるイカ釣り船の漁師トシヤ、そして母・ひろ美の体を蝕む流行り病」

と起伏を大幅追加された(ヘビを飛び越えるシーンはカット)。

 

・前・中編で頻出した「アキの振り返り」は、124話(種市先輩とキスする寸前、社長デスクの若春子の視線に気づく)が最後。

振り返りはそれっきり、もう見えなくなりました。

  (10/1追記・と思ったら、152話にありましたね。特に際立たせる演出は無かったですが

   天野家で大吉の結婚への決心を問いただす場面でやってました)

 

・あれ、今回水口や「無頼鮨」の梅さんに全然触れてない。

GМTと『地元に帰ろう』にもほぼ触れてない。

でも脱退した宮下アユミが、アキの東京最後の宴席に赤ちゃん連れで来て、セリフも無くみんなを遠巻きに見てたシーンだけは、ちょっと書き残しておきたい。

 

 

 

「あまちゃん」はこれまでのNHK朝ドラには無かった、あらゆる側面から多彩な笑いを提供してみせたドラマであった。

脚本から、演出から、ワードから、時に劇伴やアニメーションから、もちろん俳優の演技から。

笑いの好みは百人百様なので全員が全てを気に入ったかは分かりかねるが、その手数の多さが朝ドラ古今唯一無二だったのだけは間違いないだろう。

種類も、共感のあるある笑いからSF的荒唐無稽ギャグまで振り幅自在。

そしてそれらの笑いが時に潤滑油になり、時に大きな感動の流れを呼び込んだりした。

でも最終的には、同じ「おもしろかった!」という感想でも、「あー笑った!」って意味ではなく「感動した!感激した!」って意味で「おもしろかった!」と喜んだ視聴者の方が多いんだろうなぁ。

 

書きながら「さてどんなシメにしようか…」と迷っているのがバレバレですが、個人的に一番特筆したかった「あまちゃん」の凄味は、この2点。

「印象的なギャグをすべてリフレインして使ってみせる脚本の計算能力」

「震災のわずか1年半前後で、震災時期の核心に触れつつ、被災者心理の機微までドラマ化する、脚本の時事に対するフットワーク」

結局、「クドカンすげーや!」ってことなのね。おしまい。